2025年に就任した社長のうち、社員から昇格した人は36.1%でした。親族が継いだ32.3%を、初めて上回っています。帝国データバンクが2025年11月に公表した調査です。後継者候補を見ても、親族ではない人が41.0%と、初めて4割を超えました。
次の社長を社員から選ぶ会社が増えています。ただ、後継者の選び方を解説した記事の多くは、子どもや親族に継ぐことを前提にしています。社員から選ぶ場合は、仕事ができる人の中から、経営者に向く人を見分けなければなりません。株式の買い取りや経営者の個人保証など、親族に継ぐときとは違う壁もあります。この記事では、先代の経営者が後継者を決めるときに重視したことと、社員から選ぶときの基準・手順・壁を、公的な資料をもとに整理します。
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この記事の結論
- 2025年に就任した社長の経緯は、内部昇格が36.1%で、同族承継の32.3%を初めて上回った
- 先代の経営者が後継者を決めるときに最も重視した資質は「経営に対する意欲・覚悟」(2019年版中小企業白書)
- 社員から選ぶときは、現場で成果を出す力と、経営者として判断する力を分けて見る
- 社員から選ぶ場合は、株式の買い取り資金、経営者の個人保証、本人の家族の同意を、選ぶ段階で確かめる
- 経営者としての判断力と覚悟は、候補のうちに新しい事業を一つ任せて確かめる
この記事の目次
- 後継者の選び方は3通り:親族・社員・社外
- 社員から次の社長を選ぶ会社が増えている
- 先代の経営者が、後継者を決めるときに重視したこと
- 社員から選ぶときは、現場の力と経営の力を分けて見る
- 後継者を選ぶ5つの手順
- 社員から選ぶときの3つの壁
- 経営の力と覚悟は、新しい事業を一つ任せて確かめる
- 選ばれなかった候補を、右腕の幹部として育てる
- 候補に新しい事業を任せる研修
- Q&A
後継者の選び方は3通り:親族・社員・社外
中小企業庁の事業承継ガイドライン(2022年3月の第3版)は、後継者に事業を引き継ぐ方法を次の3つに分けています。
| 承継の方法 | 誰に継ぐか |
|---|---|
| 親族内承継 | 子どもなどの親族 |
| 従業員承継 | 親族以外の役員・従業員 |
| 社外への引継ぎ(M&A) | 株式の譲渡や事業の譲渡で、社外の第三者に引き継ぐ |
ガイドラインは従業員承継について、次のように書いています。
「親族以外」の役員・従業員に承継させる方法である(以下「従業員承継」という。)。経営者としての能力のある人材を見極めて承継させることができること、社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすいといったメリットがある。
社内に適任の人がいない場合に、取引先などの外部から人を招く「外部招へい」という方法もあります。
社員から次の社長を選ぶ会社が増えている
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、2025年に就任した社長の経緯は次のとおりでした。
| 就任の経緯 | 2025年(速報値) |
|---|---|
| 内部昇格 | 36.1% |
| 同族承継 | 32.3% |
| M&Aほか | 20.6% |
| 外部招聘 | 7.6% |
2024年は同族承継が35.7%、内部昇格が35.0%で、同族承継が0.7ポイント上回っていましたが、2025年に入れ替わりました。後継者候補に占める非同族の人も41.0%で、初めて4割を超えています。
社員から選ぶ会社には、もう一つ特徴があります。2023年版中小企業白書によると、承継を決めてから社長に就任するまでの期間は、親族内承継では「5年以上」が29.9%で最も多い一方、社員の内部昇格では「1年未満」が39.4%で最も多くなっていました。社員から選ぶ会社は、決めてから就任までが短いということです。
先代の経営者が、後継者を決めるときに重視したこと
2019年版中小企業白書は、事業を承継した経営者に、後継者を決めるうえで重視した資質・能力を聞いています(みずほ情報総研、2018年12月の調査)。
重視した資質として多く挙がったのは、「自社の事業に関する専門知識」と「自社の事業に関する実務経験」でした。一方で、最も重視した資質を一つ選んでもらうと、「経営に対する意欲・覚悟」が最も多くなりました。白書は次のように書いています。
ただし、最も重視されている資質・能力は、「経営に対する意欲・覚悟」という心構えの部分であることが見て取れる。
知識や経験は多くの経営者が見ていますが、最後に決め手にしたのは本人の意欲と覚悟だったということです。
同じ白書は、承継の方法別にも結果を分けています。
| 承継の方法 | 白書が書いている傾向 |
|---|---|
| 親族内承継 | 「血縁関係」の割合は高いが、それ以上に専門知識・実務経験の割合が高い |
| 役員・従業員承継 | ほかの方法より「社内でのコミュニケーション能力(従業員からの信頼、リーダーシップ、統率力等)」の割合が高い |
| 社外への承継 | 専門知識・実務経験はほかより低く、「経営に対する意欲・覚悟」を重視する傾向 |
社員から選ぶ場合は、ほかの社員から信頼されているか、人をまとめられるかが、より重視されています。
白書は、後継者に満足しているかどうかも聞いています。「血縁関係」を最も重視して後継者を決めた人は、ほかの資質を重視した人に比べて、「満足」と答えた割合が低くなっていました。
社員から選ぶときは、現場の力と経営の力を分けて見る
社員の中から後継者を選ぶとき、最初に候補に挙がるのは、営業や製造で成果を出している人です。しかし、現場で成果を出す力と、経営者として判断する力は同じではありません。白書の資質の分け方を使うと、候補を次の2つに分けて見られます。
| 見ること | 現場の力 | 経営の力 |
|---|---|---|
| 中身 | 自社の事業の専門知識、実務経験 | 経営に対する意欲・覚悟、社内をまとめる力、自分で判断して責任を持つこと |
| 確かめ方 | これまでの仕事の成果 | 自分で決める仕事を任せたときの行動 |
| 社内での見えやすさ | 見えやすい | 任せてみないと見えない |
現場の力は、これまでの成果を見ればわかります。経営の力は、本人が自分で決めて、その結果に責任を持つ仕事を任せてみないとわかりません。ガイドラインも、従業員と経営者で大きく違うのは「会社を経営することに対する覚悟や責任感」だと言われている、と書いています。
候補が複数いる場合は、現場の成果だけで順位をつけず、経営の力を確かめる機会を全員に用意してから比べます。
後継者を選ぶ5つの手順
ガイドラインは、後継者の選定について次のように書いています。
親族内承継や従業員承継において、後継者候補を選定し、経営に必要な能力を身につけさせ、また後述する知的資産を含めて受け継いでいくには一定の準備期間が必要とされ、これらの取組に十分な時間を割くためにも、後継者候補の選定は出来るだけ早期に開始すべきである。
この考え方に沿うと、社員から後継者を選ぶ手順は次の5つになります。
1. 会社の5年後・10年後の姿を決める
どんな事業を続け、何を新しく始めるかによって、必要な後継者は変わります。
2. 候補を複数書き出す
役員や幹部だけでなく、若い社員も含めて、経営を任せられる可能性のある人を書き出します。
3. 候補に、自分で判断する仕事を任せる
一つの部門や事業の責任者を任せ、自分で決める場面をつくります。その行動から、経営の力と覚悟を確かめます。
4. 本人と家族の意思を確かめる
後継者になる意思があるか、株式の買い取りや個人保証について家族が同意できるかを、決める前に確かめます(次の節)。
5. 決めて、社内と社外に伝える
選んだ理由と、就任までの予定を、社員と取引先、金融機関に伝えます。
社員から選ぶときの3つの壁
ガイドラインは、従業員承継に特有の課題を次のように書いています。
従業員承継については、一般的に後継者が将来経営者になることについての認識が弱いこと、後継者である従業員の家族や、現経営者の親族といった関係者の理解を得ることが容易ではないこと、株式や事業用資産を有償譲渡する場合の買取資金の調達が容易ではないことなど、特有の困難な課題があるため、時間を掛けて進めていたにもかかわらず、最後の段階で頓挫してしまうことも少なくない。
ここから、社員から選ぶときの壁は3つに分けられます。
1. 株式の買い取り資金
親族なら相続や贈与で株式を引き継げますが、社員が株式を買い取るには資金が必要です。ガイドラインは、従業員承継で親族の株主の了解を得ることも重要なポイントだと書いています。
2. 経営者の個人保証
中小企業が金融機関から借り入れるとき、経営者が個人で保証していることがあります。ガイドラインは、従業員に承継するときに個人保証の扱いが問題になることが多く、後継者の家族が反対したために事業承継そのものをあきらめたケースもあると書いています。
中小企業基盤整備機構の2018年度の調査では、後継者が決まっていない企業のうち、「後継者候補はいるが、経営者保証を理由に拒否している」が11.9%、「経営者保証以外の理由で拒否している」が6.4%でした(「後継者候補がいない」は81.7%)。候補に断られた企業のうち、経営者保証が理由だった割合を計算すると、65.0%になります(11.9 ÷(11.9+6.4))。
一方で、保証のルールは変わってきています。2020年4月からは、事業承継のときに前の経営者と後継者の両方から保証を取ることを、原則として求めない特則が適用されています。金融庁によると、2025年度に民間金融機関が代表者の交代に対応した件数のうち、両方から保証を取った(二重徴求)のは3.0%でした。
| 代表者の交代時の保証の扱い(2025年度、民間金融機関) | 割合 |
|---|---|
| 前の経営者の保証を解除し、新しい経営者とは保証を結ばなかった | 16.7% |
| 前の経営者の保証を解除し、新しい経営者と保証を結んだ | 40.6% |
| 前の経営者の保証は解除せず、新しい経営者とは保証を結ばなかった | 39.7% |
| 前の経営者の保証を解除せず、新しい経営者とも保証を結んだ | 3.0% |
金融庁は、この数字は現時点の集計で、今後変わることがあるとしています。
3. 本人の覚悟と、社内の関係
ガイドラインは、従業員承継で後継者を決めて事業を引き継ぐうえで苦労した点として、「後継者の了承を得ること」が多いと書いています。ほかの役員や社員との関係にも注意が必要だとしています。
この3つは、後継者を決めたあとに初めて話すのではなく、候補の段階で本人と、必要なら家族と話しておきます。
経営の力と覚悟は、新しい事業を一つ任せて確かめる
先代の経営者が最も重視したのは意欲と覚悟でした。ただ、覚悟は面談や書類では確かめにくく、経営の力も、自分で判断する仕事を任せてみないと見えません。
その方法の一つが、候補に新しい事業を一つ任せることです。既存の事業では、社長や上司がすでに判断の基準を持っています。会社がまだ手がけていない事業なら、誰に何を売るか、いくら使うか、続けるかやめるかを、候補が自分で決めることになります。
2023年版中小企業白書によると、承継を機に始めた新しい取組が売上に寄与した企業では、そうでない企業に比べて、後継者が準備期間中に「営業を担当し、新規取引先を開拓した」「自社の経営に携わり、経営に関する哲学や手法を学んだ」割合の差が大きくなっていました。新しい取組が売上に寄与した企業ほど、後継者が準備期間中に自分で顧客を開拓し、経営に携わっていたということです。
社員から社長を選ぶ会社では、決めてから就任までが1年未満のことが多いため、候補を一人に決める前から、複数の候補にこうした仕事を任せておく必要があります。
研修を使って後継者候補に新規事業を担当させる場合の、費用と進め方はこちらの資料で確認できます。
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選ばれなかった候補を、右腕の幹部として育てる
候補が複数いれば、選ばれなかった人が出ます。経済同友会が2026年3月に公表した事業承継のガイドラインは、後継者の右腕になる次の世代の幹部を、承継の前から育てるよう求めています。
選ばれなかった候補には、新しい社長を支える幹部としての役割を、決めたことを伝えるときに一緒に伝えます。候補のうちに一緒に新しい事業に取り組んでいれば、社長交代のあとも同じ関係で働けます。
→ 経済同友会の事業承継ガイドライン7箇条|後継者に「経営に近い経験」を積ませるため、社長就任前に何を任せるか
候補に新しい事業を任せる研修
新価値創造プログラムという方法

新価値創造プログラムは、受講者が自社の新規事業または社内プロジェクトを実際に立ち上げる研修です。全10回・約6カ月のあいだに、受講者は一人一つ、必ず事業かプロジェクトを立ち上げます。
進め方は次の順番です。
- アイデアを「誰に、何を提供するか」まで言葉にする
- 想定する顧客に話を聞き、本当の課題を見つける
- 競合と比べて、自社が提供する価値の違いをはっきりさせる
- 試作品をつくり、収益の見込みを立てる
- 最終回で事業計画を発表し、実際の顧客の獲得を目指す
複数の会社の社員が一緒に受講するため、自社の外の人から意見をもらいながら進めます。具体的な新規事業のアイデアがない段階からでも参加でき、最初の2回はアイデアを出すところから始めます。
後継者の候補が複数いる場合は、それぞれに受講してもらい、顧客に話を聞くところから事業計画を発表するまでの行動を、選ぶ材料の一つにできます。社長のそばを離れた場で、社外の人の意見を受けながら、自分で決めて進める経験になります。
社員から次の社長を出す会社の準備は、次の記事でも書いています。
→ 後継者不在率50.1%|次の社長を社内から出すために、就任前の数年で何をさせるか
研修の費用の組み方と、始めるまでの手順は資料にまとめています。
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Q&A
後継者はどう選べばよいですか
会社の将来の姿を決め、候補を複数書き出し、候補に自分で判断する仕事を任せて経営の力と覚悟を確かめます。そのうえで本人と家族の意思を確かめ、決めて社内外に伝えます。中小企業庁の事業承継ガイドラインは、後継者候補の選定はできるだけ早く始めるべきだとしています。
後継者に必要な資質は何ですか
2019年版中小企業白書によると、事業を承継した経営者が後継者を決めるときに多く重視したのは、自社の事業の専門知識と実務経験でした。最も重視した資質は「経営に対する意欲・覚悟」です。社員から選ぶ場合は、社内でのコミュニケーション能力(従業員からの信頼、リーダーシップ、統率力など)がより重視されています。
社員を後継者にするときの課題は何ですか
中小企業庁のガイドラインは、後継者が経営者になる認識が弱いこと、本人の家族や現経営者の親族の理解を得にくいこと、株式などを買い取る資金を用意しにくいことを挙げています。経営者の個人保証の扱いも問題になることが多いとしています。
後継者は個人保証を引き継がなければなりませんか
必ずしも引き継ぐわけではありません。2020年4月からは、事業承継のときに前の経営者と後継者の両方から保証を取ることを原則として求めない特則が適用されています。2025年度に民間金融機関が代表者の交代に対応した件数のうち、新しい経営者と保証を結ばなかったものは、前の経営者の保証を解除した16.7%と、解除しなかった39.7%でした。
後継者の候補が複数いるときはどうすればよいですか
現場の成果だけで順位をつけず、全員に自分で判断する仕事を任せてから比べます。選ばれなかった候補には、新しい社長を支える幹部としての役割を一緒に伝えます。
社員から後継者を選ぶ会社は増えていますか
増えています。帝国データバンクの調査では、2025年に就任した社長の経緯は内部昇格が36.1%で、同族承継の32.3%を初めて上回りました。
新規事業を社内で立ち上げる研修の費用と進め方は、次の資料にまとめています。
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本記事は2026年10月17日時点の公開情報に基づいています。最新の内容は各出典でご確認ください。
[出典]
帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査(2025年)」2025年11月21日
https://www.tdb.co.jp/report/economic/20251121-successor25y/
中小企業庁「2019年版 中小企業白書」第2部第1章(第2-1-11図、第2-1-12図、第2-1-18図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/2019/html/b2_1_2_2.html
中小企業庁「2023年版 中小企業白書」第2部第2章第1節(第2-2-14図、第2-2-39図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/chusho/b2_2_1.html
中小企業庁「事業承継ガイドライン 第3版」2022年3月
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
中小企業基盤整備機構「平成30年度『経営者保証に関するガイドライン』認知度調査」
https://www.smrj.go.jp/research_case/succesion/fbrion0000002q2w-att/keieisha_question2018.pdf
金融庁「『経営者保証に関するガイドライン』等の活用実績について(2025年度の実績)」2026年6月26日
https://www.fsa.go.jp/news/r7/ginkou/20260626/20260626.html
経済同友会「ファミリービジネスの成長を日本経済の推進力に 事業承継に関する経営者向けガイドラインおよび政策提言」2026年3月30日
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/2025/260330.html

