新しい事業に取り組んだ中小企業のうち、「成功した」と答えた企業は28.6%でした。2017年版中小企業白書が載せた、中小企業庁の委託調査の結果から計算した割合です。新規事業は、うまくいかないことのほうが多い取組です。だからこそ、どこまで続けて、どこでやめるかを、始める前に決めておく必要があります。
撤退基準の解説記事の多くは、利用者数や顧客1人あたりの収益など、IT企業やスタートアップの指標で書かれています。中小企業で社長が一人で判断する場合は、使えるお金と時間に限りがあります。この記事では、お金の上限・期日・顧客の反応・時間の4つで撤退基準を決める方法と、段階ごとの撤退条件、既存事業と同じ物差しで早く打ち切らないための考え方を、公的な調査と経済産業省の指針をもとに整理します。
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この記事の結論
- 新事業展開が「成功した」と答えた中小企業は28.6%(2017年版中小企業白書の調査から計算)。撤退の条件は、始める前に決めておく
- 中小企業の撤退基準は、お金の上限、期日、顧客の反応、社長と担当者の時間の4つで決める
- 基準は書面にし、社長以外の人も同じ基準を見られるようにする
- 既存事業と同じ時間軸や売上の基準で評価すると、新規事業は早く打ち切られやすい。段階ごとに、何がわかれば次に進むかを決める
- やめるときは、顧客への説明、担当者の次の仕事と評価、残った顧客の声と記録の扱いを先に決めておく
この記事の目次
- 新規事業はどのくらい成功しているか
- 新規事業の撤退基準とは:始める前に決める「やめる条件」
- 中小企業の撤退基準は4つで決める
- 段階ごとに、次に進む条件とやめる条件を決める
- 既存事業と同じ物差しで、早く打ち切らない
- 社長一人で判断しないための仕組み
- 撤退するときにすること
- 段階を踏んで新規事業を立ち上げる研修
- Q&A
新規事業はどのくらい成功しているか
中小企業では、成功したと答えた企業は28.6%
2017年版中小企業白書は、中小企業庁が野村総合研究所に委託して2016年11月に行った調査で、中小企業の新事業展開の実施状況と成果を聞いています(2万5,000社に送付、回収率15.1%)。
| 新事業展開の種類 | 意味 | 実施している |
|---|---|---|
| 新市場開拓 | 新しい市場で既存の製品・サービスを展開する | 22.3% |
| 新製品開発 | 既存の市場で新しい製品・サービスを開発・展開する | 23.7% |
| 多角化 | 既存の事業を続けながら、新しい市場で新しい製品・サービスを展開する | 16.0% |
| 事業転換 | 既存の事業を縮小・廃止しながら、新しい市場で新しい製品・サービスを展開する | 4.9% |
新事業展開の成果について答えた企業のうち、「成功した」は292社、「成功していない」は728社でした。成功した企業の割合を計算すると28.6%です(292 ÷ 1,020)。白書は、「目標が達成できず失敗だった」「成功か失敗かどちらともいえない」「まだ判断できない」をまとめて「成功していない」として集計しています。失敗だけでなく、まだ結果が出ていない企業も含まれる数字です。
成功した企業では、経常利益率が増加傾向にある企業が51.4%で、成功していない企業の30.2%を上回っていました。
ほかの調査では、成功の定義が違う
| 調査 | 成功の定義 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 2017年版中小企業白書(2016年調査) | 新事業展開を総合的に評価して「成功した」 | 中小企業 | 28.6%(計算値) |
| パーソル総合研究所(2021年調査) | 新規事業が「成功している」と答えた | 従業員300人以上の企業の新規事業担当者 | 30.6% |
| PwC Japan(2025年) | 案件が投資回収の段階以降に達した | 売上高10億円以上の企業 | 少なくとも1件が達した企業は約21% |
調査ごとに対象も定義も違いますが、どの調査でも、成功したと言える企業は2〜3割です。
新規事業の撤退基準とは:始める前に決める「やめる条件」
撤退基準とは、新規事業をどの条件になったらやめるかを、始める前に決めておくものです。始めたあとで決めようとすると、すでに使ったお金や時間、担当者の頑張りが気になって、やめる判断が遅れます。
国内の中小企業が新規事業の撤退基準をどのくらい決めているかを調べた全国の調査は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。参考になるのは、日本政策金融公庫総合研究所が2014年10月に、海外の拠点から撤退した経験のある中小企業に聞いた調査です。
| 海外拠点から撤退したときの撤退基準 | 割合 |
|---|---|
| 撤退基準を設けていなかった | 70.5% |
| 書面ではないが、社内で共有していた | 20.5% |
| 書面で設けていた | 9.0% |
国内の新規事業ではなく、海外に出資した拠点からの撤退についての調査です。それでも、海外拠点から撤退した中小企業の7割は、基準を決めないまま判断していたことがわかります。
中小企業の撤退基準は4つで決める
中小企業で社長が判断する場合、撤退基準は次の4つで決めます。下の表の数字は、説明のための例です。
| 基準 | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| お金の上限 | 新規事業に使ってよい金額の上限 | 試作と販売の試験に300万円まで |
| 期日 | いつまでに、何がわかっていればよいか | 6カ月後までに、有料で買う顧客が見つかっている |
| 顧客の反応 | 何社に話を聞き、何社が買うと言えば次に進むか | 20社に話を聞き、3社が試しに買うと言う |
| 時間 | 社長と担当者が、新規事業に週に何時間使うか | 担当者は週8時間、社長は月1回の確認 |
この4つにしたのは、中小企業が新事業展開を行わない理由と対応しているからです。2017年版中小企業白書で、新事業展開を実施していない企業が挙げた課題は、人材の不足が43.8%、販路が31.2%、コストが30.7%でした。人とお金と顧客に限りがあるなら、そのどれをどこまで使うかを先に決めておきます。
4つのうちどれか一つでも上限に達したら、続けるか、やめるか、やり方を変えるかを判断する場を持ちます。上限に達したら自動的にやめる、とするのではなく、その時点で必ず判断する、と決めておきます。
段階ごとに、次に進む条件とやめる条件を決める
新規事業は、いくつかの段階に分けて、段階ごとに次に進むかどうかを決めます。経済産業省の「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」(2019年)は、段階的に案件を評価する仕組みについて次のように書いています。
ステージゲートプロセスを用いて段階的に案件を評価・管理するプロセスを設計し、多くの案件を拾い上げ、プロセス内での案件の試行錯誤を促進する仕組みを整備する。
ステージゲートは、事業のアイデアから販売までをいくつかの段階に分け、段階の間に、続けるか、やめるか、前の段階に戻るかを決める関門を置く方法です。同じ指針は、社外と連携する活動について、「活動開始前に、連携先と、段階的に活動を評価・管理するプロセスを決めて、活動期間を設定し、推進する」ことも挙げています。
中小企業の新規事業なら、次の4つの段階で考えます。
| 段階 | この段階でわかること | 次に進む条件の例 | やめる・見直す条件の例 |
|---|---|---|---|
| 1. 顧客に話を聞く | 誰がどんな課題を持っているか | 同じ課題を持つ顧客が複数いる | 話を聞いても、課題を持つ顧客が見つからない |
| 2. 試作品をつくる | その課題を解決できるか | 試した顧客が、続けて使いたいと言う | 試作品を見せても、使いたい顧客がいない |
| 3. 収益の見込みを立てる | お金を払ってもらえるか、いくらで売れるか | 有料で買う顧客がいる。費用を上回る価格で売れる | 費用を下回る価格でしか売れない |
| 4. 事業計画にまとめる | 続けた場合にいつ、いくら利益が出るか | 会社として投資を続ける理由が説明できる | 上限の金額と期日の中で、利益が出る見込みが立たない |
段階ごとに条件を決めておけば、売上が出る前の段階でも、続けるかどうかを判断できます。
既存事業と同じ物差しで、早く打ち切らない
撤退基準を決めるときに気をつけたいのは、厳しくしすぎないことです。経済産業省の行動指針は、新規事業がうまくいかない企業によくある課題として、次の状況を挙げています。
価値創造活動報告に対し、すぐに、「儲かるのか?」、「3 年で黒字化するのか」、「全てのリスクはつぶしたか?」と聞いてしまっている。
既存事業と同様の時間軸で新規事業の収益性を評価してしまう。
そのうえで、新規事業の成果の見方について、次のように書いています。
価値創造活動の成果は、既存事業の評価基準(売上、顧客数、ROI、市場シェアなど)ではすぐに成果が見えにくいことを理解し、価値創造戦略に基づいた成功の予兆を見える化できる指標(挑戦に係る活動量、失敗からの学びと活かし方など)を設け、評価する。
始める前に期間と段階を決めることと、既存事業の物差しで早く打ち切らないことは、矛盾しません。段階1や段階2で売上がまだ無いのは当たり前です。その段階では、何社に話を聞いたか、何社が試したかといった、その段階で確かめるべきことで判断します。売上と利益で判断するのは、段階3と段階4です。
社長一人で判断しないための仕組み
中小企業の新規事業は、社長が意思決定をすることが多くなります。2023年版中小企業白書によると、新規事業に取り組んだ中小企業で最も多い体制は、「経営者が進捗管理や意思決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた」の59.5%でした。社長が一人で決める場合、ほかの人が同じ基準で判断を確かめる機会がありません。
判断がぶれないように、次の3つを決めておきます。
1. 撤退基準を書面にする
4つの基準と段階ごとの条件を、始める前に紙に書いておきます。海外拠点の撤退の調査では、書面で基準を設けていた企業は9.0%でした。
2. 判断する日を、担当者と社内に伝える
「6カ月後の月末に、続けるかどうかを決める」と、日付を決めて担当者に伝えておきます。
3. 社外の人の意見を聞く場を持つ
取引のある金融機関、顧問の税理士や専門家、他社の経営者など、新規事業に利害の無い人に、判断の前に意見を聞きます。
意思決定を社長がするとしても、何を基準に、いつ決めるかを先に決めて書いておけば、社長自身も、そのときの気持ちで判断せずにすみます。
研修を使って社員に新規事業を担当させる場合の、費用と進め方はこちらの資料で確認できます。
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撤退するときにすること
やめると決めたら、次の3つを行います。
1. 顧客と取引先に説明する
試作品を使ってくれた顧客や、協力してくれた取引先に、やめる理由とこれからの対応を伝えます。契約がある場合は、終わらせ方を決めます。
2. 担当者の次の仕事と評価を決める
経済産業省の行動指針は、新規事業がうまくいかない企業によくある課題として「価値創造活動を奨励しておきながら失敗を許さない風土がある」ことを挙げています。事業にならなかったことで担当者の評価を下げると、次に新規事業を任せられる人がいなくなります。顧客に話を聞き、計画をつくった経験を評価し、元の部署に戻すか、次の新規事業を任せるかを決めます。
3. わかったことを記録に残す
どの顧客にどんな課題があったか、何を試してどうだったかを記録に残します。次の新規事業を考えるときに、最初の段階をやり直さずにすみます。
段階を踏んで新規事業を立ち上げる研修
新価値創造プログラムという方法

新価値創造プログラムは、受講者が自社の新規事業または社内プロジェクトを実際に立ち上げる研修です。全10回・約6カ月のあいだに、受講者は一人一つ、必ず事業かプロジェクトを立ち上げます。
進め方は次の順番です。
- アイデアを「誰に、何を提供するか」まで言葉にする
- 想定する顧客に話を聞き、本当の課題を見つける
- 競合と比べて、自社が提供する価値の違いをはっきりさせる
- 試作品をつくり、収益の見込みを立てる
- 最終回で事業計画を発表し、実際の顧客の獲得を目指す
複数の会社の社員が一緒に受講するため、自社の外の人から意見をもらいながら進めます。具体的な新規事業のアイデアがない段階からでも参加でき、最初の2回はアイデアを出すところから始めます。
この順番は、上で示した4つの段階と同じです。顧客に話を聞いて課題が見つからなければアイデアを見直し、試作品で反応を確かめ、収益の見込みを立ててから事業計画にまとめます。約6カ月という期日と、全10回という区切りがあるため、段階ごとに続けるか見直すかを判断する経験を、研修の中で積めます。他社の受講者が同じ段階を進むので、社長以外の人の意見も聞けます。
社内で新規事業を誰に任せるかは、次の記事で書いています。
→ 新規事業の施策1位は3年連続「社内起業家の育成」|専門部署の新設は13.6ポイント減、社内で誰に任せるか
研修の費用の組み方と、始めるまでの手順は資料にまとめています。
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Q&A
新規事業の撤退基準とは何ですか
新規事業をどの条件になったらやめるかを、始める前に決めておくものです。始めたあとで決めようとすると、すでに使ったお金や時間が気になって、やめる判断が遅れます。
撤退基準はいつ決めればよいですか
新規事業を始める前に決めます。経済産業省の行動指針も、活動を始める前に、段階的に評価するプロセスと活動期間を決めることを挙げています。
撤退基準はどんな指標で決めればよいですか
中小企業では、お金の上限、期日、顧客の反応、社長と担当者の時間の4つで決めます。売上がまだ出ない段階では、何社に話を聞いたか、何社が試したかなど、その段階で確かめることで判断します。
新規事業の成功率はどのくらいですか
2017年版中小企業白書の調査では、新事業展開が「成功した」と答えた中小企業は28.6%でした(成功した292社 ÷ 成果を答えた1,020社)。従業員300人以上の企業の調査では「成功している」が30.6%(パーソル総合研究所)、売上高10億円以上の企業の調査では投資回収の段階以降に達した案件がある企業が約21%(PwC Japan)です。
撤退の判断は誰がすればよいですか
中小企業では社長が判断することが多くなります。そのときは、撤退基準を書面にし、判断する日を決めて担当者に伝え、判断の前に社外の人の意見を聞く場を持つと、判断がぶれにくくなります。
撤退したら、担当者はどうすればよいですか
事業にならなかったことで担当者の評価を下げないようにします。顧客に話を聞き計画をつくった経験を評価し、元の部署に戻すか、次の新規事業を任せるかを決めます。わかったことは記録に残し、次の新規事業に使います。
新規事業を社内で立ち上げる研修の費用と進め方は、次の資料にまとめています。
▼ 【2026年8月改正対応】新規事業研修で使えるリスキリング助成金の全て
本記事は2026年10月17日時点の公開情報に基づいています。最新の内容は各出典でご確認ください。
[出典]
中小企業庁「2017年版 中小企業白書」第2部第3章(第2-3-3図〜第2-3-5図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf
経済産業省「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」2019年10月4日
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kodoshishin/pdf/20191004003-1.pdf
日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の海外事業再編に関するアンケート」2015年1月
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings150127.pdf
パーソル総合研究所「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」
https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/New-Business-Development.pdf
PwC Japan「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025」2025年11月12日
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/new-business-development-survey-2025.html
中小企業庁「2023年版 中小企業白書」第2部第1章第3節(第2-1-72図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/chusho/b2_1_3.html

