研修の稟議書には、背景、目的、対象者、内容と方法、費用、成果の確かめ方、実施しない場合に続くことの7つを書きます。目的から方法までは、厚生労働省が育成計画の作り方として示す「何のために、誰に対して、何を、どのように」の4つの切り口で埋めると、抜けがなくなります。
費用は、金額だけでなく、比べる数字と一緒に書きます。産労総合研究所の調査では、2024年度の従業員1人あたりの教育研修費用は年36,036円、中小企業は31,788円でした。正社員60人の会社なら、中小企業の平均で年約191万円です。この記事では、7つの項目の書き方と、半年かかる新規事業研修を例にした稟議書の全文を紹介します。自社の稟議書を書くときに、そのまま項目を当てはめて使えます。
社内で新規事業を立ち上げる研修の費用と進め方は、資料にまとめています。
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この記事の目次
- 稟議書に書く7つの項目
- 目的から方法までは、4つの切り口で埋める
- 背景には、社内の事実と公的な数字を並べる
- 費用は、比べる数字と一緒に書く
- 半年かかる研修は、成果を3つの時点に分けて書く
- 例文:新規事業の研修に社員1人を出す場合
- 決裁者から出やすい質問と、答えの用意
- Q&A
稟議書に書く7つの項目
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 1. 背景と課題 | なぜ今この研修が必要か。社内の事実と数字 |
| 2. 目的 | 研修が終わったとき、受講者と会社がどうなっているか |
| 3. 対象者 | 誰が受けるか。その人を選んだ理由 |
| 4. 内容・方法・期間 | 何を、どのような形で、いつからいつまで学ぶか。業務への影響 |
| 5. 費用 | 総額、内訳、1人あたりの金額と、比べる数字 |
| 6. 成果の確かめ方 | 研修中、終了時、終了後に、それぞれ何を確かめるか |
| 7. 実施しない場合に続くこと | 研修をしなければ、どの課題がそのまま残るか |
申請日、申請者、決裁者の欄など、書式の決まりは会社ごとに違います。この記事では、どの会社の書式でも必要になる中身の部分を扱います。
目的から方法までは、4つの切り口で埋める
厚生労働省は、会社が社員の育成計画を作るための手引きを公開しています。手引きは、会社が行う研修を一枚の図にまとめる「教育訓練体系図」の作り方として、次の4つの切り口で研修を整理するよう示しています。
- 何のために(到達目標)
- 誰に対して(対象者)
- 何を(研修の名前)
- どのように(方法)
この4つは、稟議書の「目的」「対象者」「内容」「方法」にそのまま当てはまります。研修会社の案内を写すと、「何を」と「どのように」ばかりが詳しくなり、「何のために」と「誰に対して」が薄くなりがちです。4つの切り口を順に埋めると、この偏りを防げます。
同じ手引きは、会社が研修を必要とする理由の例として、経営戦略の側から「新規事業の起業」を挙げ、新規事業では「これまでの事業分野にはない能力が求められる」と書いています。新規事業の研修を申請するときは、背景の欄にこの考え方を引くことができます。
育成計画の作り方は、人材育成に問題がある事業所80.1%、育成計画は約8割の企業が未作成、何から書くかで詳しく説明しています。
背景には、社内の事実と公的な数字を並べる
背景の欄には、まず社内の事実を書きます。売上の推移、担当者の年齢、退職者の数など、決裁者が自分で確かめられる数字です。
そのうえで、同じ課題が自社だけのものではないことを示す公的な数字を添えると、説明の土台になります。たとえば、厚生労働省が2026年7月31日に公表した能力開発基本調査では、人材育成に何らかの問題がある事業所は80.1%で、問題点で最も多かったのは「指導する人材が不足している」の59.5%でした。社内に教えられる人がいない分野を外部の研修で補う理由として使えます。
ただし、公的な数字は背景を補うものです。自社の事実が書かれていない背景は、なぜ自社で今やるのかの説明になりません。
費用は、比べる数字と一緒に書く
費用の欄には、受講料、交通費、教材費などの内訳と総額、受講者1人あたりの金額を書きます。そのうえで、決裁者が金額の大きさを判断できるように、比べる数字を並べます。
比べる数字として使えるのは、次の二つです。
- 世の中の目安。産労総合研究所の調査で、2024年度の従業員1人あたりの教育研修費用は年36,036円、中小企業は31,788円でした
- 自社の研修費の総額。今年度の研修費予算のうち、この研修が何%にあたるか
選抜した数人だけが受ける研修は、1人あたりの金額が大きくなります。そのため、受講者1人あたりの金額を36,036円と比べるのではなく、会社全体の研修費の中でいくらを使うか、という形で書きます。正社員60人の会社なら、中小企業の平均31,788円で計算した年間の研修費は約191万円です。その中で、将来の幹部を育てる研修にいくら使うかを示します。
研修費の目安の詳しい数字は研修費の目安は1人あたり年3万6,036円、中小企業は3万1,788円、会社全体の研修予算の決め方は研修予算の決め方|5つの算出方法を計算例で比べるにまとめています。
研修を使って社員に新規事業を担当させる場合の、費用と進め方はこちらの資料で確認できます。
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半年かかる研修は、成果を3つの時点に分けて書く
新規事業の研修のように、売上が出るまで時間がかかる研修は、「売上がいくら増えるか」を成果として書くことができません。成果の欄は、研修中、終了時、終了後の3つの時点に分けて、それぞれ確かめることを書きます。
| 時点 | 確かめること(例) |
|---|---|
| 研修中 | 想定する顧客に話を聞いた件数、試作品をつくったか、毎回の課題を出したか |
| 終了時 | 事業計画を発表したか、その計画を社内で続けて検討するかを決めたか |
| 終了後 | 3カ月後、6カ月後に、事業の検討がどこまで進んだか。受講者に任せた仕事が増えたか |
研修中と終了時の項目は、研修の進め方に沿って数えられるものを選びます。終了後の項目は、研修の外で会社が決めることです。稟議書の段階で「終了時に経営会議で事業計画を聞き、続けるかを決める」と書いておくと、研修のあとに何をするかまで、決裁の時点で決まります。
例文:新規事業の研修に社員1人を出す場合
正社員60人の会社が、主任1人を半年間の外部の新規事業研修に出す場合の例です。〇〇の部分は自社の内容に置き換えてください。
件名
外部研修「新規事業立ち上げ研修」への社員派遣の件
1. 背景と課題
当社の売上の〇割を占める主力製品は、この〇年で売上が〇%減っている。新しい事業の検討は社長と役員が兼務で行っており、検討を任せられる社員がいない。社内には、新しい事業の立ち上げ方を教えられる人もいない。
2. 目的
将来、事業部を任せたい社員に、新しい事業を一つ立ち上げる経験を積ませる。研修の終了時点で、社内で続けて検討できる事業計画を1件つくる。
3. 対象者
〇〇部 主任 〇〇 〇〇(〇歳)1名。顧客との打ち合わせを担当しており、取引先の困りごとを直接聞いている。本人も新しい事業の担当を希望している。
4. 内容・方法・期間
外部の研修会社が行う新規事業の研修(全10回・約6カ月、〇年〇月〜〇年〇月)。受講者は自社の新しい事業を一つ決め、想定する顧客に話を聞き、試作品をつくり、最終回で事業計画を発表する。複数の会社の社員と一緒に受講する。業務への影響は、研修日の月〇日と、顧客への聞き取りなど研修の課題に使う時間。担当業務の一部を〇〇が代わる。
5. 費用
受講料〇円、交通費〇円、合計〇円。今年度の研修費予算〇円の〇%にあたる。参考として、産労総合研究所の調査では、中小企業の従業員1人あたりの教育研修費用は年31,788円で、当社の正社員60人で計算すると年約191万円となる。
6. 成果の確かめ方
研修中は、顧客への聞き取りの件数と、毎回の課題の提出を、上長が月に1回確認する。終了時は、受講者が経営会議で事業計画を発表し、続けて検討するかを決める。続ける場合は、3カ月後と6カ月後に進み具合を経営会議で確認する。
7. 実施しない場合に続くこと
新しい事業の検討を社長と役員が兼務する状態が続き、検討を任せられる社員がいないままになる。
決裁者から出やすい質問と、答えの用意
稟議書を出す前に、次の質問への答えを用意しておきます。
なぜ社内でやらずに外部の研修なのか
社内に新しい事業の立ち上げ方を教えられる人がいないことを、背景の事実で答えます。能力開発基本調査でも、人材育成の問題で最も多いのは「指導する人材が不足している」でした。
なぜこの社員なのか
本人の担当業務と、選んだ理由を答えます。手を挙げた社員の中から選ぶ方法については、社内ベンチャー制度・新規事業の社内公募で説明しています。
半年も業務を抜けて大丈夫か
研修日の日数と、課題に使う時間の見込み、代わりに業務を担当する人を答えます。
研修のあと、何が残るのか
事業計画と、終了時に経営会議で続けるかを決める段取りを答えます。成果を3つの時点に分けて書いておけば、そのまま答えになります。
新価値創造プログラムという方法

新価値創造プログラムは、受講者が自社の新規事業または社内プロジェクトを実際に立ち上げる研修です。全10回・約6カ月のあいだに、受講者は一人一つ、必ず事業かプロジェクトを立ち上げます。
進め方は次の順番です。
- アイデアを「誰に、何を提供するか」まで言葉にする
- 想定する顧客に話を聞き、本当の課題を見つける
- 競合と比べて、自社が提供する価値の違いをはっきりさせる
- 試作品をつくり、収益の見込みを立てる
- 最終回で事業計画を発表し、実際の顧客の獲得を目指す
複数の会社の社員が一緒に受講するため、自社の外の人から意見をもらいながら進めます。具体的な新規事業のアイデアがない段階からでも参加でき、最初の2回はアイデアを出すところから始めます。
稟議書の4つの切り口に当てはめると、「何のために」は新しい事業を一つ立ち上げる経験、「誰に対して」は将来の事業を任せたい社員、「何を」は新規事業の立ち上げ、「どのように」は約6カ月で実際に事業計画をつくる形、と書けます。成果の欄の「研修中」「終了時」の項目は、上の進め方の順番がそのまま確かめる項目になります。
研修の費用の組み方と、始めるまでの手順は資料にまとめています。
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Q&A
研修の稟議書には何を書けばよいですか
背景と課題、目的、対象者、内容・方法・期間、費用、成果の確かめ方、実施しない場合に続くことの7つです。目的から方法までは、厚生労働省の手引きにある「何のために、誰に対して、何を、どのように」の4つの切り口で埋めると、抜けがなくなります。
研修費が高いか安いかは、何と比べればよいですか
産労総合研究所の調査では、2024年度の従業員1人あたりの教育研修費用は年36,036円、中小企業は31,788円でした。選抜した数人が受ける研修は1人あたりの金額が大きくなるため、会社全体の研修費の中で何%にあたるかもあわせて書きます。
成果がすぐに出ない研修は、成果の欄をどう書けばよいですか
研修中、終了時、終了後の3つの時点に分けて書きます。新規事業の研修なら、研修中は顧客に話を聞いた件数、終了時は事業計画の発表、終了後は3カ月後と6カ月後の進み具合を確かめる、という形です。
稟議書の背景に使える公的なデータはありますか
厚生労働省の能力開発基本調査(2026年7月31日公表)では、人材育成に問題がある事業所が80.1%で、最も多い問題は「指導する人材が不足している」の59.5%でした。社内に教えられる人がいない分野を外部の研修で補う理由として使えます。
研修の稟議書と研修企画書は違いますか
研修企画書は、研修の中身を設計して社内で提案する資料です。稟議書は、その研修を行うことと費用を、決裁者に承認してもらう書類です。企画書で決めた内容を、稟議書では7つの項目に絞って書きます。
新規事業を社内で立ち上げる研修の費用と進め方は、次の資料にまとめています。
▼ 【2026年8月改正対応】新規事業研修で使えるリスキリング助成金の全て
本記事は2026年10月12日時点の公開情報に基づいています。最新の数値は各出典でご確認ください。
[出典]
厚生労働省「『事業内職業能力開発計画』作成の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/0000199757.pdf
厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」2026年7月31日公表
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00233.html
産労総合研究所「2025年度(第49回)教育研修費用の実態調査」2025年10月8日公表
https://www.sanro.co.jp/news/n117342.html

