社内ベンチャー制度や新規事業の社内公募をつくっても、社員から手が挙がらない。この悩みは、制度の設計が会社の規模に合っていないことから起きている場合があります。
パーソル総合研究所が従業員300人以上の企業で新規事業に携わる1,800人に聞いた調査では、新規事業の担当者を「手挙げ式で公募」して決めた割合は16.1%でした。最も多いのは「経営層が指名」の39.1%です。中小企業では、新規事業を始めた会社の59.5%が「経営者が進捗管理や意思決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた」と答えています(2023年版中小企業白書)。
従業員300人以上の会社でも新規事業の担当者は指名で決まることが多く、中小企業では経営者が新規事業の意思決定をしています。この記事では、社内ベンチャー制度と社内公募・提案制度の違いを整理し、中小企業で手が挙がらない理由と、社長がテーマを決めて社員が引き受ける形の設計を紹介します。
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この記事の結論
- 社内ベンチャー制度・社内起業制度・新規事業の社内公募・提案制度は、何を募集し、選ばれた人が何をするかで分けられる
- 新規事業の担当者を手挙げの公募で選ぶ会社は16.1%。経営層の指名は39.1%で最も多い(従業員300人以上)
- 中小企業が新規事業に取り組むときの体制で最も多いのは、意思決定は経営者、実行は現場に任せる形(59.5%)
- 手が挙がらない理由は、本業と別に新規事業に使う時間が無いこと、失敗したときの評価が見えないこと。社員が少ない会社では、手を挙げた人が抜けた分の仕事も問題になる
- 中小企業では、社長がテーマと候補を決めて声をかけ、本人が引き受けるかを選ぶ形にすると、募集しても誰も応募しないという事態を避けられる
この記事の目次
- 社内ベンチャー制度とは:社内起業制度・社内公募・提案制度との違い
- 社内ベンチャー制度のメリットとデメリット
- 新規事業の担当者は、手挙げより指名で選ばれている
- 中小企業の新規事業は、経営者が意思決定し、現場が実行している
- 新規事業の社内公募で手が挙がらない理由
- 中小企業で社内公募をするときの設計:社長が決めて、社員が引き受ける
- 社内に一緒に考える仲間がいないときは
- Q&A
社内ベンチャー制度とは:社内起業制度・社内公募・提案制度との違い
社内ベンチャー制度、社内起業制度、新規事業の社内公募、新規事業提案制度は、どれも社員が新しい事業に取り組むための制度です。公的機関が定めた共通の定義は無く、会社によって呼び方と中身が違います。この記事では、何を募集し、選ばれた人が何をするかで、次のように分けます。
| 制度 | 何を募集するか | 選ばれた人がすること | 会社が出すもの |
|---|---|---|---|
| 社内ベンチャー制度 | 事業のアイデアと、それを自分で事業にする人 | 社内の事業部や子会社として事業を立ち上げ、責任者になる | 事業の資金、専任の時間、場合によって出資 |
| 社内起業制度 | 社内ベンチャー制度とほぼ同じ意味で使われることが多い | 同上 | 同上 |
| 新規事業の社内公募 | 会社が決めた新規事業の担当者 | 決まったテーマの事業を担当する | 担当者としての時間 |
| 新規事業提案制度 | 事業のアイデア | 提案する。事業化するかは会社が決め、提案者が担当するとは限らない | 審査、試作や調査の費用 |
経済産業省が2019年に公表した「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」は、行動指針の一つに「社内起業家制度の導入」を挙げ、社内起業家制度や出向などを通じて「社内で活躍の場を与える」ことを求めています。
「社内公募制度」という言葉は、人事異動の制度を指すことが多い言葉です。社員が希望する部署やポストの募集に自分で手を挙げる制度で、新規事業のアイデアを募る制度とは別のものです。
人事異動の社内公募制度について、日本の人事部「人事白書2024」は、導入している企業が34.8%と報告しています。従業員1〜100人の企業では13.6%、5,001人以上の企業では81.1%でした。厚生労働省の委託調査(2024年3月)では導入企業は26.5%で、導入しない理由で最も多いのは「運用が難しい」の41.9%です。この調査は正社員100人以上の企業を対象にしています。どちらも新規事業の社内公募の導入率ではありませんが、社員が少ない会社ほど、社員が手を挙げる形の制度をそもそも使っていないことがわかります。
社内ベンチャー制度のメリットとデメリット
会社にとってのメリット
- 社内から新しい事業の担い手が見つかる。2023年版中小企業白書によると、中小企業2,734社のうち、直近10年で内部で育成した変革人材がいた企業は42.7%で、外部から確保した変革人材がいた企業の25.8%より多い
- 既存の事業の経営資源を使える。同じ白書では、新規事業に取り組んだ成長企業の約9割が既存事業の経営資源を活用していた
- 社員が、事業を自分で考えて計画する経験を積める
会社にとってのデメリット
- 担当者が本業と別に新規事業に使う時間を、会社が用意しなければならない
- 事業にならなかったときの担当者の評価と扱いを、先に決めておかなければならない
- 審査や支援をする人手がかかる。人事異動の社内公募制度でも、導入しない理由の1位は「運用が難しい」(41.9%)だった
新規事業の担当者は、手挙げより指名で選ばれている
新規事業の担当者を社員の手挙げで選んでいる会社は、多くありません。
| 担当者の決め方(パーソル総合研究所、2021年調査) | 割合 |
|---|---|
| 経営層が指名 | 39.1% |
| 従業員からの起案(ボトムアップ) | 30.1% |
| 社内ビジネスコンテスト | 22.0% |
| 手挙げ式で公募 | 16.1% |
| 社外から副業人材を募集 | 6.8% |
パーソル総合研究所「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」は、従業員300人以上の企業で新規事業を専任または兼務する1,800人に聞いたもので、複数回答です。従業員300人以上の会社でも、手挙げ式の公募で担当者を決めた割合は16.1%でした。
ビザスクが2024年12月に、企業の経営責任者や新規事業開発の責任者101人に聞いた調査でも、担当者の選び方で最も多いのは「経験やスキルに基づき選定」の77.2%でした。「外部からの採用」は43.6%、「社内公募で選定」は34.7%です。回答者は同社の調査パネルで、企業規模の内訳は公表されていません。
二つの調査とも、会社が担当者を選ぶ方法が、社員の手挙げより多くなっています。
中小企業の新規事業は、経営者が意思決定し、現場が実行している
2023年版中小企業白書は、直近10年で新規事業に取り組んだ中小企業1,211社に、そのときの組織体制の工夫を聞いています(複数回答)。
| 新規事業に取り組んだときの組織体制の工夫・取組 | 割合 |
|---|---|
| 経営者が進捗管理や意思決定を担い、現場での指揮や業務の遂行は現場に任せた | 59.5% |
| 新規事業を社内に理解させる取組を行った | 34.8% |
| 若手の社員を登用した | 20.5% |
| プロジェクトを組成して新規事業に取り組んだ | 17.8% |
| 経営者が新規事業に口出しをしないよう意識した | 12.6% |
| 当てはまるものはない | 8.5% |
最も多いのは、意思決定は経営者、実行は現場という形の59.5%です。権限委譲を進めている企業に限っても、新規事業に関する方針決定の権限は「経営者に集中」が39.5%、「経営層まで」が42.7%でした。部長・課長まで任せている企業は15.3%です。
社員の数が少ない会社では、権限委譲を進めている割合が低くなっています。経営者からの権限委譲を「ある程度」または「積極的に」進めている企業は、従業員5〜20人で60.9%、51〜100人で75.3%でした(それぞれ二つの回答の合計)。
中小企業で新規事業を始めるとき、何をするかは経営者が決め、実行を社員に任せる形が多いということです。社員の提案を待つ大企業型の制度は、この形と合いません。
新規事業の社内公募で手が挙がらない理由
社員に「なぜ新規事業に手を挙げないのか」を聞いた公的機関や研究機関の調査は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。ここでは、制度を運営する側が課題として挙げていることから、理由を整理します。
本業と別に、新規事業に使う時間が無い
経済産業省の行動指針は、新規事業がうまくいかない企業によくある課題として、次の状況を挙げています。
業務時間外にボランタリーベースで活動しているため、推進主体が価値創造活動を行う時間がない。
新規事業の責任者101人に聞いたビザスクの調査でも、新規事業の課題で最も多いのは「リソース不足」の57.4%でした。本業の仕事量が変わらないまま新規事業に手を挙げると、残業や休日で新規事業を進めることになります。
失敗したときの評価が見えない
同じ行動指針は、次の課題も挙げています。
価値創造活動を奨励しておきながら失敗を許さない風土がある。
新規事業は、事業にならずに終わることもあります。そのときに評価が下がるかもしれないと社員が考えれば、手を挙げる人は減ります。
経営者が何を求めているかが見えない
ビザスクの調査では、新規事業の課題として「経営層の理解やサポートが不十分」を挙げた人が48.5%いました。テーマを決めずに「何でもいいから提案してほしい」と募集すると、社員は経営者が何を求めているかを推測するところから始めなければなりません。
社員が数十人の会社では、一人が新規事業に時間を使うと、その人の本業の仕事を誰かが引き受けることになります。手を挙げる本人も、それを周りに頼みにくくなります。審査で選ばれなかった人がいた場合も、社員が少ない会社では誰が落ちたかが周りに分かります。大企業向けにつくられた公募制度をそのまま持ち込むと、こうした点で手が挙がりにくくなります。
研修を使って社員に新規事業を担当させる場合の、費用と進め方はこちらの資料で確認できます。
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中小企業で社内公募をするときの設計:社長が決めて、社員が引き受ける
中小企業では、社員の手挙げを待つのではなく、社長がテーマと候補を決め、本人が引き受けるかを選ぶ形にすると、調査で見た中小企業の体制と合います。手順は次の5つです。
1. 社長が、会社の強みと新規事業のテーマを先に決める
成長企業の約9割は、既存事業の経営資源を使って新規事業を始めています。どの技術や顧客を使うか、どの分野で新しい事業をつくるかを社長が先に示せば、社員は何を考えればいいかがわかります。
2. 候補を決めて、社長から個別に声をかける
従業員300人以上の会社でも、担当者の決め方で最も多いのは経営層の指名(39.1%)でした。全社に募集を出すより、候補を数人に絞って社長が直接話すほうが、中小企業の規模には合います。新規事業に取り組んだ中小企業の20.5%は、若手の社員を登用しています。
3. 引き受けるかどうかは本人が決める
指名しても、引き受けるかどうかを本人が選べるようにします。断った場合に評価が下がらないことも、声をかけるときに伝えておきます。
4. 新規事業に使う時間を、業務時間の中に確保する
経済産業省の行動指針は、勤務時間の一定割合を本業以外に使えるようにする例として、20%という数字を挙げています。週5日のうち1日分にあたります。その人の本業の仕事のうち、誰が何を引き受けるかも決めておきます。
5. 事業にならなかったときの扱いを先に決める
行動指針は、本業に加えて新しい事業に挑戦することを勧める人事評価制度を整えるよう求めています。事業にならなかった場合も、計画をつくり顧客に話を聞いた経験を評価すること、元の部署に戻れることを、始める前に決めて伝えておきます。
意思決定は社長がするとしても、担当者に任せる部分は先にはっきりさせておきます。新規事業に取り組んだ中小企業の12.6%は「経営者が新規事業に口出しをしないよう意識した」と答えています。
社内に一緒に考える仲間がいないときは
社員が少ない会社では、新規事業を担当する人が社内に一人だけになることがあります。相談できる相手が社長しかいない状態で、顧客に話を聞き、事業計画をつくるところまで一人で進めるのは簡単ではありません。社内に仲間がいない場合は、他の会社で新規事業を担当している人と一緒に学ぶ方法があります。
新価値創造プログラムという方法

新価値創造プログラムは、受講者が自社の新規事業または社内プロジェクトを実際に立ち上げる研修です。全10回・約6カ月のあいだに、受講者は一人一つ、必ず事業かプロジェクトを立ち上げます。
進め方は次の順番です。
- アイデアを「誰に、何を提供するか」まで言葉にする
- 想定する顧客に話を聞き、本当の課題を見つける
- 競合と比べて、自社が提供する価値の違いをはっきりさせる
- 試作品をつくり、収益の見込みを立てる
- 最終回で事業計画を発表し、実際の顧客の獲得を目指す
複数の会社の社員が一緒に受講するため、自社の外の人から意見をもらいながら進めます。具体的な新規事業のアイデアがない段階からでも参加でき、最初の2回はアイデアを出すところから始めます。
上の手順で社長が声をかけた社員に受講してもらえば、手順4の「新規事業に使う時間」を、全10回の受講と準備の時間として確保できます。社長が決めたテーマで受講することも、アイデアを出すところから始めることもできます。
社内起業家を育てる施策の動向は、次の記事で詳しく書いています。
→ 新規事業の施策1位は3年連続「社内起業家の育成」|専門部署の新設は13.6ポイント減、社内で誰に任せるか
研修の費用の組み方と、始めるまでの手順は資料にまとめています。
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Q&A
社内ベンチャー制度とは何ですか
社員が考えた事業のアイデアを、社内の事業部や子会社として事業にし、その社員が責任者になる制度です。会社は事業の資金や時間を出します。公的な共通の定義は無く、会社によって中身が違います。
社内起業制度との違いは何ですか
ほぼ同じ意味で使われることが多い言葉です。どちらも、社員が自分で新しい事業を立ち上げることを会社が支える制度を指します。
新規事業の社内公募と、人事異動の社内公募制度は違いますか
違います。人事異動の社内公募制度は、社員が希望する部署やポストに自分で応募する制度です。新規事業の社内公募は、会社が決めた新規事業の担当者を社内から募る制度です。
中小企業でも社内ベンチャー制度は導入できますか
導入できますが、大企業の制度をそのまま持ち込むと手が挙がりにくくなります。中小企業の新規事業は、意思決定は経営者、実行は現場という形が59.5%で最も多いため、社長がテーマと候補を決め、本人が引き受けるかを選ぶ形が合います。
社内公募で応募が集まらないときはどうすればよいですか
全社に募集を出すのをやめ、社長がテーマを決めて候補に個別に声をかける方法があります。あわせて、新規事業に使う時間を業務時間の中に確保し、事業にならなかったときの評価と扱いを先に決めて伝えます。
新規事業の担当者はどう選べばよいですか
従業員300人以上の企業の調査では、経営層が指名する方法が39.1%で最も多く、手挙げ式の公募は16.1%でした。中小企業では、社長が候補を決めて声をかけ、本人が引き受けるかを選ぶ形にすると、指名と本人の意思の両方を生かせます。
新規事業を社内で立ち上げる研修の費用と進め方は、次の資料にまとめています。
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本記事は2026年10月3日時点の公開情報に基づいています。最新の内容は各出典でご確認ください。
[出典]
中小企業庁「2023年版 中小企業白書」第2部第1章第3節(第2-1-48図、第2-1-65図、第2-1-66図、第2-1-67図、第2-1-72図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/chusho/b2_1_3.html
同 第2部第1章第1節(第2-1-19図、第2-1-23図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/chusho/b2_1_1.html
パーソル総合研究所「企業の新規事業開発における組織・人材要因に関する調査」
https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/data/New-Business-Development.pdf
ビザスク「新規事業担当者の選定」に関する調査、2025年1月24日
https://corp.visasq.co.jp/archives/19672
経済産業省「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」2019年10月4日
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kodoshishin/pdf/20191004003-1.pdf
日本の人事部「人事白書2024」2024年7月24日
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/3516/
厚生労働省委託「『多様な正社員』制度に係る調査研究・導入支援等事業 調査結果報告書」2024年3月
https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/tayou/pdf/r5_report_management.pdf

