越境学習とは、所属する組織の枠を越えて、新しい環境で学ぶ取り組みです。経済産業省が2025年3月にまとめた資料は、こう定義しています。
『日本の人事部』の「人事白書2022」では、越境学習を「重要だ」「やや重要だ」と考える企業が合わせて78.1%ありました。一方で、実際の取り組みでは「取り組みを行っていない」が52.7%で最も多くなっています。重要だと考えながら、半数を超える企業がまだ始めていません。
この記事では、越境学習の定義、形式の違い、中小企業が始めるときの選び方、戻ったあとに学びを社内で生かす手順を整理します。
社内で新規事業を立ち上げる研修の費用と進め方は、資料にまとめています。
▼ 【2026年8月改正対応】新規事業研修で使えるリスキリング助成金の全て
この記事の結論
- 越境学習は、所属組織の枠を越え、新たな環境で学ぶ取り組み(経済産業省、2025年3月)。所属企業に戻ることが前提
- 越境学習を重要だと考える企業は78.1%、取り組んでいない企業は52.7%(人事白書2022)
- 形式には、数カ月以上の派遣のほか、短期のワークショップ型、プロジェクト型、副業・プロボノ、本業と並行して取り組むものがある
- 中小企業は、人を数カ月抜けさせにくいため、本業と並行できる形式から始めると選びやすい
- 効果を数値で評価しにくいことが、導入の課題になっている。送り出す前に持ち帰るテーマを決め、戻ったあとに社内で試す場を用意する
この記事の目次
- 越境学習とは:経済産業省の定義
- 越境学習に取り組む企業はどのくらいあるか
- 越境学習の形式
- 越境学習の効果と、数値で測りにくいという課題
- 中小企業が越境学習を始めるなら
- 越境学習のデメリット
- 越境学習の学びを社内に持ち帰る3つの手順
- 他社の社員と一緒に、自社の新しい事業を考える研修
- Q&A
越境学習とは:経済産業省の定義
経済産業省は、2025年3月の「越境学習をイノベーション創出につなげるために ―越境学習グッドプラクティス―」で、越境学習を次のように定義しています。
本件における「越境学習」とは、所属組織の枠を越え、新たな環境で学ぶ取り組みである
この資料が扱う越境学習は、所属組織の制度のもとで、人材育成を目的に、所属企業に戻ることを前提として、一時的に越境先の業務に携わる体験です。越境先には、スタートアップやNPO、地域のコミュニティなど、所属組織と組織文化が大きく違うところが挙がっています。
越境先で葛藤しながら挑戦し、実績を得る経験をすることで、自分のスキルや行動の特性を変えていく。これが資料の考える越境学習です。
ポイントは、戻ることが前提だということです。外で学んで終わりではなく、その経験を自社の仕事に生かすところまでが越境学習に含まれます。
越境学習に取り組む企業はどのくらいあるか
「人事白書2022」の調査結果です。調査は2022年3月7日〜31日に、『日本の人事部』の正会員を対象に行われ、5,200社、5,441人(のべ)が回答しました。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 越境学習は「重要だ」 | 37.9% |
| 越境学習は「やや重要だ」 | 40.2% |
| 重要だと考える企業(合計) | 78.1% |
| 実際の取り組みで「取り組みを行っていない」 | 52.7% |
重要だと考える企業の合計は、37.9% + 40.2% = 78.1%です。
調査結果の記事は、企業規模が大きいほど越境学習を重視する傾向がある、と書いています。規模ごとの割合は公開記事の本文に載っていないため、ここでは書きません。
この調査は人事メディアの会員へのWeb調査で、中小企業だけを集計したものではありません。中小企業の実態を表す数字として読むときは、この点に注意してください。
越境学習の形式
経済産業省の資料は、数カ月以上、所属組織の業務を離れて越境先の業務に取り組むものを中心に扱っています。そのうえで、ほかの形式も挙げています。
この他、越境学習の形式として、2泊3日で社会課題の現場に行く等の短期のワークショップ型、プロジェクト型、個人で取り組むプロボノや副業等のいわゆる「小さな越境」、週に数時間越境先企業の業務に取り組む等の本業と並行して取り組む方法も存在する。
資料の記述をもとに、形式を表にまとめます。「中小企業で考えること」の列は、この記事で整理したものです。
| 形式 | 資料の記述 | 中小企業で考えること |
|---|---|---|
| 長期の派遣 | 数カ月以上、所属組織の業務を離れて越境先の業務に取り組む | その人の仕事を誰が代わりにするかを先に決める必要がある |
| 短期のワークショップ型 | 2泊3日で社会課題の現場に行く等 | 業務を離れる日数は少ない。持ち帰るテーマを決めておかないと、体験で終わりやすい |
| プロジェクト型 | 形式として挙がっている | 期間と、何を成果にするかを決めて参加する |
| 小さな越境(プロボノ・副業等) | 個人で取り組む | 会社の制度として認めるか、ルールを先に決める |
| 本業と並行 | 週に数時間、越境先企業の業務に取り組む等 | 本業を続けながら参加できる |
形式ごとの費用や効果を同じ条件で比べた調査は、2026年10月17日時点で見つけられませんでした。
越境学習の効果と、数値で測りにくいという課題
経済産業省の資料は、越境学習の効果を、越境した人の成長、周りの社員の成長、越境先への貢献の3つに分けて整理しています。戻った人を見て、自分から越境しようとする社員が増える、という学習文化の広がりにも触れています。
一方で、資料は効果の測り方について、次のように書いています。
越境学習を導入している企業へのヒアリングによると、越境学習者の成長や育成効果を一般に数値等で評価することは難しく、それが企業における越境学習の導入や取組の拡大において1つの課題になっている。
これは企業へのヒアリングでわかった課題で、効果が無いという意味ではありません。ただ、社内で予算を通すときには、何を成果として見るのかを先に決めておく必要があります。
研修の成果の測り方は、次の記事で整理しています。
→ 研修の効果測定の方法|受講者の96.0%が「役に立った」と答えても昇進につながったは正社員で3.1%、新規事業研修は売上の前に何を測るか
中小企業が越境学習を始めるなら
社員の少ない会社では、一人が抜けると、その仕事を代われる人がいないことがあります。数カ月以上の派遣は、資料が中心に扱う形式ですが、中小企業がいきなり選ぶにはハードルが高い形式です。
中小企業が他社と連携する取り組みについては、日本政策金融公庫総合研究所のレポート(2026年3月)が、中小企業庁編(2018年)の調査を引用しています。他社との連携を実施したことがある企業は31.5%で、連携の内容は「共同研究・開発」が39.7%、「勉強会・研究会」が33.3%、「従業員の研修・育成」が29.7%でした。29.7%は、連携を実施した企業のうちの割合で、越境学習の実施率ではありません。
それでも、他社と一緒に勉強会を開いたり、社員の研修をしたりする企業は、すでにあります。中小企業が越境学習を始めるなら、次の形式が選びやすくなります。
- 本業と並行できる:週に数時間、または月に数回の参加で、仕事を誰かに引き継がなくてすむ
- 期間が決まっている:始まりと終わりがあり、成果を確かめる時期がはっきりしている
- 自社の課題を持ち込める:学んだことを、そのまま自社の仕事に使える
他社の社員と一緒に受講する研修は、この3つをそろえやすい形式です。
研修の費用の組み方は、資料にまとめています。
▼ 【2026年8月改正対応】新規事業研修で使えるリスキリング助成金の全て
越境学習のデメリット
越境学習には、次のような難しさがあります。
- 人が抜ける間の仕事:長期の派遣では、その人の仕事を誰かが代わりにする必要がある
- 効果が見えにくい:経済産業省の資料も、数値で評価するのが難しいことを課題に挙げている
- 戻ったあとに社内で生かせない:外で学んだことを試す場が社内に無いと、学びが本人の中にとどまる
3つ目について、資料のヒアリングでは、報告会を開いているが、越境学習の効果を大きくするには会社全体をもっと巻き込む必要がある、という声が紹介されています。
越境学習の学びを社内に持ち帰る3つの手順
資料のヒアリングで挙がった報告会と会社全体の巻き込みを手がかりに、送り出す前から戻ったあとまでの手順を、この記事でまとめます。
1. 送り出す前に、持ち帰るテーマを決める
「新しい取引先を開拓する方法を学ぶ」「新しい事業の計画を一つ作る」のように、戻ったあとに社内で何をするかを決めてから送り出します。テーマが決まっていれば、成果を確かめる基準も決められます。
2. 期間中に、上司と定期的に話す
越境先で何を学んでいるか、それを自社でどう使えそうかを、月に一度など決まった間隔で上司と話します。戻ってから初めて話すより、社内で試す準備を早く始められます。
3. 戻ったあとに、社内で試す場を用意する
報告会で発表するだけでなく、学んだことを使う仕事を任せます。新しい事業の計画を作ったなら、その計画を社内で検討し、小さく試すところまで決めておきます。
社員に新しい事業を任せる仕組みは、次の記事で書いています。
→ 社内ベンチャー制度・新規事業の社内公募|担当者を「手挙げ」で選ぶ会社は16.1%、中小企業で手が挙がらない理由と設計のしかた
他社の社員と一緒に、自社の新しい事業を考える研修

新価値創造プログラムは、受講者が自社の新規事業または社内プロジェクトを実際に立ち上げる研修です。全10回・約6カ月のあいだに、受講者は一人一つ、必ず事業かプロジェクトを立ち上げます。
複数の会社の社員が一緒に受講します。経済産業省の資料の形式でいえば、本業と並行して取り組む形式や、プロジェクト型に近いものです。数カ月、仕事を離れて派遣する形式ではありません。
進め方は次の順番です。
- アイデアを「誰に、何を提供するか」まで言葉にする
- 想定する顧客に話を聞き、本当の課題を見つける
- 競合と比べて、自社が提供する価値の違いをはっきりさせる
- 試作品をつくり、収益の見込みを立てる
- 最終回で事業計画を発表し、実際の顧客の獲得を目指す
他社の社員から意見をもらいながら、扱うのは自社の新しい事業です。そのため、研修で作った事業計画を、そのまま社内に持ち帰って進められます。先ほどの3つの手順でいえば、持ち帰るテーマは「自社の新しい事業」、社内で試す場は「研修のあとの事業の立ち上げ」になります。
具体的な新規事業のアイデアがない段階からでも参加でき、最初の2回はアイデアを出すところから始めます。
後継者候補や次のリーダーに、外の人と一緒に経験を積ませる方法は、次の記事でも書いています。
→ 後継者育成研修の選び方と費用|東京都の事業承継塾は無料、中小企業大学校は10カ月128万3,000円
→ 次世代リーダー育成で成果が出る会社の6割、短期業績より挑戦機会を優先|候補者に何を任せるか
Q&A
越境学習とは何ですか
所属する組織の枠を越えて、新しい環境で学ぶ取り組みです。経済産業省の2025年3月の資料は、所属企業に戻ることを前提に、一時的に越境先の業務に携わる体験を中心に扱っています。
越境学習の効果は何ですか
経済産業省の資料は、越境した人の成長、周りの社員の成長、越境先への貢献に分けて整理しています。一方で、成長や育成の効果を数値で評価するのは難しく、それが導入の課題になっている、とも書いています。
越境学習のデメリットは何ですか
人が抜ける間の仕事、効果の見えにくさ、戻ったあとに学びを社内で生かせないことがあります。送り出す前に持ち帰るテーマを決め、戻ったあとに試す場を用意すると、3つ目の問題を減らせます。
中小企業でも越境学習はできますか
できます。数カ月以上の派遣が難しくても、本業と並行して取り組む形式や、他社の社員と一緒に受講する研修があります。他社との連携を実施した企業のうち29.7%が、連携の内容に「従業員の研修・育成」を挙げています(中小企業庁編、2018年)。
越境学習と研修の違いは何ですか
越境学習は、所属組織と組織文化の違う場所で、そこの業務や課題に取り組む点に特徴があります。他社の社員と一緒に自社の課題に取り組む研修は、経済産業省の資料が挙げるプロジェクト型や本業と並行する形式に近いものです。
越境学習の費用はどのくらいですか
形式によって違います。形式ごとの費用を同じ条件で比べた公的な調査は、2026年10月17日時点で見つかりませんでした。研修として参加する場合の費用の組み方は、資料で確認できます。
新規事業を社内で立ち上げる研修の費用と進め方は、次の資料にまとめています。
▼ 【2026年8月改正対応】新規事業研修で使えるリスキリング助成金の全て
本記事は2026年10月17日時点の公開情報に基づいています。最新の内容は各出典でご確認ください。
[出典]
経済産業省「越境学習をイノベーション創出につなげるために ―越境学習グッドプラクティス―」2025年3月(調査実施:株式会社野村総合研究所)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/shukkokigyo/jireisyu.pdf
『日本の人事部』「人事白書2022」越境学習の調査結果
https://jinjibu.jp/article/detl/hakusho/2911/
日本政策金融公庫総合研究所「日本公庫総研レポート No.2026-1 異業種連携で成長する中小企業」2026年3月
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/soukenrepo_26_03_27a.pdf

