経済同友会は2026年3月30日、ファミリービジネスの事業承継について、経営者向けのガイドラインを公表しました。後継者候補を選んで育てる順番に沿って、現経営者が守るべき7つの項目を並べています。後継者の育て方については「後継者候補には経営に近い経験を積ませ、可能な限り早期に承継すべき」と書き、子会社の社長などに任命して、後継者に経営判断をさせる場をつくることも挙げました。
同じガイドラインは、後継者の右腕になる世代の幹部を先に育てることや、現経営者が会長として長く残らないことも求めています。中小企業庁の事業承継ガイドライン(2022年3月の第3版)も、後継者に経営企画などを担当させ、意思決定の機会を与えるよう書いています。二つの指針に共通するのは、社長になる前に、後継者が自分で判断する仕事を持たせることです。自社の後継者に、社長になる前のどの時期に何を任せるか、7項目の中身から整理します。
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この記事の目次
- 7箇条は「現経営者が守るべき指針」
- 後継者には、子会社の社長などで経営判断をさせる
- 右腕になる次の世代の幹部を、先に育てる
- 指名は第三者のいる場で決め、現社長は短い期間で離れる
- 後継者の自覚は、幼いころから促す
- 中小企業庁のガイドラインは、社内と社外の教育を挙げる
- 二つの指針は何が違うか
- 社長就任前に何を任せるか
- Q&A
7箇条は「現経営者が守るべき指針」
ガイドラインの正式な題名は「ファミリービジネスの成長を日本経済の推進力に 事業承継に関する経営者向けガイドラインおよび政策提言」です。経済同友会の中堅・中小企業活性化委員会がまとめ、本文は20ページあります。
想定する読者は、中堅企業のファミリービジネスで、株式の所有と経営の両方を担っている経営者です。ただし本文は、企業の規模やファミリーの株式保有比率に関わらず「広く参考」になるとも書いています。ファミリービジネスの定義には、ファミリービジネス白書の「同一ファミリーから2名以上が株主又は役員として関与している企業」をそのまま使っています。
ガイドラインは、会社を「経営」「所有」「ファミリー」の三つの面から見ています。社長として会社を経営すること、株主として会社を持つこと、家族の一員であることが重なる部分で問題が起きやすいため、後継者を選んで育てる順番に沿って、現経営者が守るべき7つの項目を整理した、と説明しています。
| 時期 | 項目 | 中身 |
|---|---|---|
| 時期を問わない | ① 事業承継方針の策定・更新 | 所有と経営のあり方、資産の贈与・相続の方針、承継のルールを、家族で話し合って決める |
| 幼少期から学生時代 | ② 後継者候補の育成 | 幼いころから、後継者としての自覚を促す |
| 就職から家業に入るまで | ③ 株式などの資産の準備 | 資産の準備には10年以上かかるため、後継者を決める前から始める |
| 就職から家業に入るまで | ④ 次の世代の幹部の育成 | 後継者の右腕になる世代を先に育てる |
| 家業に入ってから社長就任まで | ⑤ 後継者候補の経験を積ませる | 経営に近い経験を積ませ、できるだけ早く承継する |
| 家業に入ってから社長就任まで | ⑥ 後継者の指名と経営を監視する仕組み | 第三者の立場で意見を言える人を含む場で、後継者を決める |
| 家業に入ってから社長就任まで | ⑦ 現経営者の退任 | 社長を指名したら、短い期間で経営から離れ、所有と監督の立場に移る |
この文書はアンケート調査の報告書ではなく、委員会の提言です。各項目を「〜すべき」と書いていますが、企業がどのくらい実施しているかを調べた数字は載っていません。根拠として示す数字は、経済産業省の研究会資料や海外の研究など、ほかの資料からの引用です。
後継者には、子会社の社長などで経営判断をさせる
7項目のうち、後継者の育て方を最も具体的に書いているのが⑤です。見出しは次の一文です。
後継者候補には経営に近い経験を積ませ、可能な限り早期に承継すべき。
本文は続けて、早い段階で大きな権限を譲り、後継者に「適切な負荷」をかけながら経験を積ませるよう求めています。そのうえで、今の事業を保って次の世代に引き継ぐことを後継者の合格点とするなら「才能よりも経験が重要」と書きました。方法の例として挙げているのが、子会社の社長などに任命し、現経営者から離れた場所で、後継者に経営判断をさせることです。
早く承継する根拠として、ガイドラインはフィンランドの大規模な調査を引用しています。現経営者の子どもが承継したときの平均年齢は、息子で33.4歳、娘で34.9歳でした。これは経済同友会が海外の研究から引いた数字で、日本の後継者の年齢を調べたものではありません。
右腕になる次の世代の幹部を、先に育てる
④は、後継者本人ではなく、後継者を支える幹部の育成を求めています。
将来後継者の右腕となる世代を早期に育成し、承継直後から後継者を支えられる体制を構築すべき。
理由として本文は、承継のときに現経営者と同じ世代の幹部しかいないケースが多いことを挙げています。この幹部たちが、現経営者の引退後も元の部下として働き続け、後継者に実質的な権限がなくなるおそれがある、と書いています。
そこでガイドラインは、現経営者と後継者のあいだの世代から、経営理念を引き継げる人を幹部として育てるよう求めました。ファミリーから後継者を指名できなかった場合には、この次の世代の幹部を後継者にすることもできる、とも書いています。幹部を育てることが、社員から次の社長を出す準備にもなるということです。
指名は第三者のいる場で決め、現社長は短い期間で離れる
⑥は、後継者の決め方です。現経営者が一人で決めるのではなく、第三者の立場で意見を言えるファミリーメンバー、経営幹部、社外取締役などを含む会議で決めるよう求めています。決める過程を明らかにし、従業員や少数株主に説明することも重要だと書いています。選考の結果、ファミリーに適任者がいなければ、ファミリーの外への承継を検討すべきだとしています。
⑦は、現経営者の退き方です。
現経営者は後継者を社長に指名すると同時に、責任と権限を大幅に譲渡するための社内規定を作り、一定の短い期間を経て経営・執行から離れ、所有・監督の立場に変わるべき。
本文は、現経営者が代表取締役会長として長く残ることで、社長の実質的な権限が大きく制限され、経営の力が育たないまま時間が過ぎるケースが「よく見られる」と書いています。退いたあとの立場としては、代表権のない会長、相談役、取締役会議長などを例に挙げました。「一定の短い期間」が何年かは書かれていません。
後継者の自覚は、幼いころから促す
②は、後継者の育成を始める時期を、社会人になってからではなく幼少期としています。本文は、ここでいう育成を、現経営者が時間を割いて経営者・所有者・家族としての姿を見せ、事業と家族の歴史や価値観を伝えることだと説明しています。
日本では進学先を選ぶことや学校での教育を育成と考える傾向があるのに対し、海外では幼いころからの親との対話など、家庭での経験を通じて価値観を伝えることを重視している、とも書いています。そのうえで、後継者候補には機会を与えて長所を伸ばし、成功体験を重ねさせるよう求めました。
研修を使って社員に新規事業を担当させる場合の、費用と進め方はこちらの資料で確認できます。
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中小企業庁のガイドラインは、社内と社外の教育を挙げる
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」第3版(2022年3月)は、中小企業と小規模事業者を対象にした指針です。後継者教育の節では、社内で行う教育と、社外で行う教育を分けて挙げています。
社内の教育として挙げているのは次のとおりです。
- 現場の知見や、その会社に特有の運営方法を身につける
- 従業員との信頼関係をつくる
- 現経営者の振る舞いや働き方を、そばで直接受け継ぐ
- 営業、製造、総務、財務、労務を一通り経験する
- 経営企画など経営の中心になる仕事を担当させ、意思決定やリーダーシップの機会を与える
社外の教育としては、取引先や同業の他社で働くこと、商工会・商工会議所や金融機関の「後継者塾」「経営革新塾」、中小企業大学校や大学などを挙げています。他社で働く目的には、多様な経験を積むことと、自社を外から客観的に見る力を身につけることを挙げています。
同じガイドラインは、経営者になるために必要だと思う準備期間を後継者候補に聞いた調査で、5年以上という回答が約5割を占めたと紹介しています。現経営者が事業承継の課題として「後継者の経営力育成」を挙げた割合は4割強で、「事業の将来性」に次いで多かったとしています。どちらも2019年版と2021年版の中小企業白書から引いた、2018年から2021年ごろの調査結果です。
二つの指針は何が違うか
二つを並べると、中小企業庁のガイドラインは社内と社外の教育の中身を具体的に挙げ、経済同友会のガイドラインは承継の順番と、現経営者の側がすべきことを多く書いています。
経済同友会の7箇条にあって、中小企業庁の後継者教育の節に項目としてないものは、次の五つです。
- 幼少期から後継者の自覚を促す
- 資産の準備に10年以上かかるため、後継者を決める前から始める
- 後継者を支える次の世代の幹部を先に育てる
- 後継者の指名を、第三者のいる会議で決める
- 現経営者が会長として長く残らない
発行は中小企業庁が2022年、経済同友会が2026年です。中小企業庁のガイドラインがこれらを否定しているわけではありません。
共通していることもあります。中小企業庁は経営企画などを担当させて意思決定の機会を与えるよう書き、経済同友会は子会社の社長などで経営判断をさせるよう書いています。どちらも、社長に就く前に、後継者が自分で判断する仕事を持たせることを求めています。
社長就任前に何を任せるか
二つの指針をもとに、社長就任前の数年で後継者に任せる仕事を、三つの手順に分けて考えます。
1. 後継者が自分で判断する仕事を一つ決める
経済同友会は、子会社の社長など、現経営者から離れた場所で経営判断をさせる例を挙げています。子会社がない会社でも、一つの部門や事業の責任者を任せれば、後継者が自分で判断する場をつくれます。
経済同友会の7箇条には「新規事業」という言葉は出てきません。一方、中小企業庁のガイドラインは、本業の競争力を強くする方法を書いた節で、後継者候補が先代から受け継いだ経営資源をもとに、新規事業、業態転換、新市場への参入などに挑む「ベンチャー型事業承継」の取り組みが広がりつつあると紹介しています。新しい事業を任せる方法も考えられます。現経営者もまだ手がけていない分野なので、後継者が自分で判断する場面が多くなります。
2. 右腕になる幹部も一緒に育てる
④のとおり、後継者を支える次の世代の幹部も、承継の前から育てておきます。後継者に任せた仕事に幹部候補も加えれば、社長交代のあとも一緒に働く関係を、交代の前からつくれます。
3. 指名の場と、現社長が離れる時期を先に決める
⑥と⑦は、現経営者の側がすることです。後継者をどの会議で決めるか、社長交代のあと現経営者がどの立場に移り、いつ経営から離れるかを決めておきます。ガイドラインは、責任と権限を大きく譲るための社内規定をつくるよう求めています。
新価値創造プログラムという方法

新価値創造プログラムは、受講者が自社の新規事業または社内プロジェクトを実際に立ち上げる研修です。全10回・約6カ月のあいだに、受講者は一人一つ、必ず事業かプロジェクトを立ち上げます。
進め方は次の順番です。
- アイデアを「誰に、何を提供するか」まで言葉にする
- 想定する顧客に話を聞き、本当の課題を見つける
- 競合と比べて、自社が提供する価値の違いをはっきりさせる
- 試作品をつくり、収益の見込みを立てる
- 最終回で事業計画を発表し、実際の顧客の獲得を目指す
複数の会社の社員が一緒に受講するため、自社の外の人から意見をもらいながら進めます。具体的な新規事業のアイデアがない段階からでも参加でき、最初の2回はアイデアを出すところから始めます。
手順の1で挙げた、後継者が自分で判断する仕事として使えます。顧客に話を聞くところから事業計画の発表まで、受講者本人が決めて進めるため、現経営者のそばを離れた場で、社外の人の意見を受けながら事業計画をつくることになります。後継者候補と、右腕になってほしい幹部候補がそれぞれ受講すれば、手順の2で挙げた幹部の育成にも使えます。
研修の費用の組み方と、始めるまでの手順は資料にまとめています。
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Q&A
経済同友会の事業承継ガイドラインはいつ公表されましたか
2026年3月30日です。経済同友会の中堅・中小企業活性化委員会がまとめた「ファミリービジネスの成長を日本経済の推進力に」という提言の中に、経営者向けのガイドラインとして7つの項目が載っています。
7箇条にはどんな項目がありますか
①事業承継方針の策定・更新、②後継者候補の育成、③株式などの資産の贈与・相続の準備、④次の世代の幹部の育成、⑤後継者候補の経験の蓄積、⑥後継者の指名と経営を監視する仕組みづくり、⑦現経営者の退任、の7つです。後継者を選んで育てる時期の順に並んでいます。
後継者にはどんな経験を積ませるべきとしていますか
「経営に近い経験」です。早い段階で大きな権限を譲り、子会社の社長などに任命して、現経営者から離れた場所で経営判断をさせる例を挙げています。
中小企業でも参考になりますか
ガイドラインが想定する読者は中堅企業のファミリービジネスの経営者ですが、本文は企業の規模に関わらず広く参考になると書いています。中小企業と小規模事業者を対象にした指針としては、中小企業庁の事業承継ガイドライン第3版があります。
現経営者は承継のあとどうすべきとしていますか
後継者を社長に指名すると同時に、責任と権限を大きく譲るための社内規定をつくり、一定の短い期間で経営から離れて、所有と監督の立場に移るべきとしています。代表権のない会長、相談役、取締役会議長などを例に挙げています。
中小企業庁の事業承継ガイドラインとは何が違いますか
中小企業庁の第3版は、社内のローテーションや経営企画の担当、他社での勤務や後継者塾など、教育の中身を具体的に挙げています。経済同友会のガイドラインは、幼少期からの自覚、次の世代の幹部の育成、第三者のいる場での指名、現経営者の退任など、承継の順番と現経営者の側がすべきことを多く書いています。
新規事業を社内で立ち上げる研修の費用と進め方は、次の資料にまとめています。
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本記事は2026年9月26日時点の公開情報に基づいています。最新の内容は各出典でご確認ください。
[出典]
経済同友会「ファミリービジネスの成長を日本経済の推進力に 事業承継に関する経営者向けガイドラインおよび政策提言」2026年3月30日公表
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/2025/260330.html
同 本文
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/20260330a.pdf
同 概要
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/uploads/docs/20260330b.pdf
中小企業庁「事業承継ガイドライン 第3版」2022年3月
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf

